札幌地方裁判所 昭和35年(ワ)717号 判決 1961年5月11日
原告 福田ノブ
右訴訟代理人弁護士 小林盛次
被告 社会福祉法人札幌養老院
右代表者理事長 太田隆資
右訴訟代理人弁護士 藤田和夫
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は訴訟費用を支払え。
事実
1 原告の請求の趣旨
被告は原告に対し、二四八、四八七円およびこれに対する昭和三五年一〇月三一日からその支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担をする。
2 被告の右に対する答弁
主文同旨
3 原告の請求原因≪以下事実省略≫
理由
(一) 主位的請求原因について
請求原因(1)の事実は、本件の全証拠によつても認めることができない。従つて、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
(二) 予備的請求原因について
1 請求原因(1)の事実中、訴外塚本由蔵が被告養老院の職員であつたことは当事者間に争がなく、又同人が原告から三〇万円を受取つた事実は、甲第一号証(証人塚本由蔵の証言によつてその成立を認める)および証人塚本由蔵の証言を綜合して認めることができる。
しかし、右塚本が被告養老院の保護課保護主任であつたことおよび同人が原告との間に原告主張のような契約をしたことは、どの証拠によつても認めることができない。むしろ、証人塚本由蔵、同白戸郁二郎、同草野庸の各証言を綜合すれば、被告養老院には保護課保護主任という職制はなく、右塚本は被告養老院における収容老人の給食衣類の供給その他、相談一般の事務を分掌する福祉課の一職員であり、右分掌事務の一部を担当しており、金銭授受の職務は全く担当していなかつたこと、右塚本が原告から三〇万円受取つたのは次の事情によるものであること、即ち、塚本は昭和三四年一〇月頃、知人佐藤某の紹介で養老施設に入ることを希望していた原告を知るようになつたが、当時塚本は養老院の設立を計画準備していたので、原告との間に右養老院が設立されたときは原告を収容し一生その面倒をみること、原告はその費用として三〇万円を前払することを約束し、その結果前記佐藤方において三〇万円が授受されたものであること、塚本はその後原告を自宅に引取り起居させていたが、原告は塚本の養老院が設立されるまでの間、既設の養老院に入りたいと申出たので、塚本は原告を身内の老人であるということにして被告養老院に一時入院方を依頼し、入院費用は塚本が負担し、期間は二、三ヶ月ということで入院が認められ原告は昭和三四年一二月二三日被告養老院に入院するようになつたものであることが認められる。証人山本フミの証言は、右認定を左右するに足りないし、外に右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、前記甲第一号証(領収書)には、「札幌養老院保護課保護主任塚本由蔵」の一記載があるけれども、証人塚本由蔵の証言によれば、右領収書は同人が住所を書く代りに架空の肩時を付したものであることが認められるから、右甲号証の存在は、前記認定の妨げにはならない。
右認定の事実によれば訴外塚本が原告から三〇万円を受領した行為は、被告の事業の執行につきなされたものとすることはできない。
2 そうすれば、訴外塚本の右行為が被告の事業の執行についてなされたものであることを主張し、これを前提とする原告の請求はその余の事実について判断するまでもなく理由がない。
3 訴訟費用の負担につき民訴法第八九条適用。
(裁判官 武藤春光)